呉ばかり続いてます。

・三国恋戦記二次創作
・仲謀ルート中の花と早安、完全捏造。
・ネタバレ注意
・一本であげるには長めなので三本に分割してます。 前編(ココ)→中編

凄腕の呉軍何でも屋・早安に別れさせ屋の仕事は果たして勤まるか!?という話。
完全捏造のほぼギャグ、テーマはフラグクラッシャー花。
もうなんかキャラ変わっちゃってるかと。いろいろすみません。
 
 
■花篭絡作戦 前篇
「何かの時には動いていただくことになるでしょう」
「……わかった」

早安は与えられた指示に一切迷いを感じず、間諜活動、影武者、果ては暗殺などどんな任務もこなしてきた。
迷いがないのは、もちろん現在もそうであったが。
「明らかに、人選ミスじゃないのか……」
胸の内で呟く。
現在早安に課せられた任務は二つ。
一つは、孫尚香の替え玉として玄徳に嫁ぎ、隙を見て暗殺すること。
そしてもう一つが。
「策は私が考えます。あなたはそれに沿って行動していただけば宜しい。」
上司である公瑾の言葉を思い返した。
「玄徳軍の使者が我が軍にいるうちに、彼女を篭絡して頂きたいのです。」
なに、完全に落とせなくても問題ありません、そう公瑾は続けた。
彼女とある程度親しくなり、早安と密会することに後ろめたさを感じるようにさせれば策は成功である、そう言った。
「火の無いところに煙を立たせるのです、疑念を仲謀様に抱かせる事が目的ですから。」
孫家当主である仲謀と玄徳軍使者が何やら怪しいという噂は少し前から耳にするようになっていたが自分には関係が無い話とばかり思っていた。
「まさか、こんな仕事がまわってくるなんてな……」
かつて経験した任務と趣旨が全く異なる。やりにくさは感じたが、それが公瑾の指示だ。与えられた役目は役目。同時に複数の任務をこなすことも珍しいことではない。
陸口でわずかに顔を合わせた少女。
特に何の印象も無い。相手が自分の顔を覚えてなければ良いが、そう思った。

早安は先ほど届いた公瑾からの書簡を見、眉をわずかにひそめた。
『街中の曲がり角でぶつかり、謝る。ついでに何か物を落とすと尚良し』。
……これは、本物だろうか。すりかえられた疑いは無いか確認したが、印も押されているしぴたりと大きさの揃った神経質な字は公瑾のものに間違いない。
……この調子で延々指示が綴られているのだろうか。
「命令だからな…」
早安のため息には諦めが混じっていた。

◆ ◆ ◆

作戦の開始は早安が指示を受けた翌日のこと。その日はまず孫尚香として衣装合わせを行った後次の作戦が始まるはずであったが。
間が悪いことに、早安は城内で偶然その使者と鉢合わせしてしまった。
冷静に視線を外し、足早に城外へ向かう。仲謀に取り入る程の女だ、当然その妹である孫尚香とも面識があって然るべき。振る舞いも声帯模写も準備段階である今、会話をするのは避けねばならない。
呼びかけられた声に反応しなかったから見間違いとでも思ってくれたら良いが、そう願い足を速めたが玄徳の使者はしつこく追いかけてくる。女物の衣装であることが災いして通常の速さで移動できないことが歯がゆい。どうにか早安が玄徳の使者をやり過ごした時は孫尚香本人を軟禁している屋敷の傍まで来てしまっていた。
普通の少女だろうと見くびっていたが認識を改める必要があるかも知れない、そう早安は思った。女ながらにあの孔明の唯一の弟子を務める人物である、一見しただけではわからない才覚があるのかも知れない。作戦には気を引き締めてとりかかるべきだろう。
早安は手早く孫尚香の扮装を解き、町人の装いを身につけた。花はそう遠くに行っていないはずだ。今なら追いつけるはずだった。

予想通り、街に出て少し探しただけで花の姿を簡単に見つけ出すことができた。
どうやら早安を追っているうちに道に迷ったらしい。明らかにさっきから同じ道をぐるぐる周っている。
ーー作戦開始だ。
ちょうどいいタイミングを狙い、早安が花が出てくるであろう曲がり角へ早足で向かった瞬間。
花は急に地面の何かを拾うために屈んだ。
「っ!!」
元々ぶつかることを想定して接近していたため、このままだと花の頭に膝蹴りを入れることになってしまう。早安は慌てて体を逸らした。
「あっ!!」
花も早安に気が付き、バランスを失いかけた早安の方へ手を伸ばした。
思わず、反射的に差し出された手をとったが。
……、なんだこの体勢。早安は眉をひそめた。
しゃがんだ花と立つ早安の右手どうしが重なっているその体勢はまるで……。
お手をしている犬と飼い主のようだ、そう早安は思った。
「すっすいません」
焦ったような花の言葉で我にかえり早安は瞬時に手を離し身を引いた。
「あの、私、急にしゃがんじゃったから……」
「……別になんともない…」
なんとなく気まずさを感じ、早安は眼を逸らした。
書簡に書かれた指示を思い返す。いきなりの失敗だが、軌道修正はまだ可能だろうか。
「大丈夫?」
早安は可能な限り『爽やか』な笑顔で言い、手を差し出した。
「ごめんね、驚かせちゃったかな。」
花をみると、呆けた顔で早安を見るばかりで手を取ることに頭がまわらないようだ。
なんだろう、不審がられている様子ではないようだが。
「……」
花は大きな瞳をさらに大きくしながら早安の顔を凝視していた。
早安は顔に張り付けた笑みがこわばるのを自覚する。自分の行動に違和感を感じさせるような何かがあっただろうか。笑顔を保つ筋肉は使い慣れていなかった。
「あの?」
早安が発した言葉で我に帰ったらしい、花はびくっと大きく体を震わせると手も取らず勢いよく立ち上がった。
頬がかすかに上気している。
「あっあの、ごめんなさい、知ってる人にすごく似てたから……」
手を変な角度で上下にかくかくと動かし、ぺこっと一礼して凄い勢いで花は来た方向へ駈け出して行った。
差し出した手の行き場を失った早安は、その手を腰に当ていまいましげに眉をひそめた。「……失敗、か。」
なんなんだ、あの女。行動が予測不可能だ。
小さくなっていく背中を追いかける気も削がれた。
花が駈け出した道なりにまっすぐ進めば表通りと交差している。迷わず城内へ戻れるだろう。
ふと、地面に見慣れない形状の物体が落ちているのに気がついた。鮮やかな、ピンクの箱型をした何かだ。
拾いあげるとしゃりんと聞きなれない音が鳴った。これまで触ったことがないつやのある材質で出来ているようだ。
孔明の弟子は異国出身だと聞いている。
「……あいつのか?」
角で顔を合わせる前、花は何かを拾うそぶりを見せていた。ひょっとしたら、これを拾うところだったのだろうか。
書簡での指示を思い返し、早安は呟いた。
「あいつが落してどうするんだよ……」


(続きます…続き

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