更新遅くてすみません。
【……言い訳させていただくと…】
ノートPCが不調でリカバリディスクした後、結局メーカー修理に出してたのが
昨日戻ってきた!!
保証内だったので無償修理で得した感じです。HDD新品になってきました♪わーい。

・三国恋戦記二次創作
・仲謀ルート中の花と隠し、完全捏造。
・ネタバレ注意
前編→コレ→後編まだ書き途中です…すみません。

■花篭絡作戦 中編
寝台の上にうつぶせになり、早安は昼間のことを考えた。
思い返しても不愉快になる。初日から指示の内容を遂行できないとは。早安は袖机の上に乗せたいまいましいピンクの物体を見やり長い溜息をついた。


結果的には花との面識も持てたし次回の会話のきっかけになる忘れ物も異なる形ではあれ手に入れたのだから上々の成果だ、というのが報告時の公瑾からの評価。しかし命令を果たせなかったのは事実だった。小さな溜息と同時に早安は頬杖をついた。
自分を見上げた花の茫然とした顔を思い返す。あの時は自分の顔になにか付いているのか、それとも作りなれない笑顔に違和感を持たれたかと焦ったが、落ち着いて考えてみると納得する理由があった。同時に公瑾がなぜ早安にこの役を与えたかを理解した。より適切な人材はいくらでもいると指令が下された時は思ったが。
「なるほど、な。」
頬杖をついた手をずらし顔をなぞった。
「似てる、か?」
早安は孫家当主の姿を思い返した。それ程自覚がある訳ではないが、替え玉の役が務まる程度には似ているのだろう。父・文台とは一度も会ったことがないし何の感慨も抱いていなかった。しかしその父とやらが残してくれた縁のおかげで都督直属の部下として呉軍に籍を置けたことには感謝している。
早安は袖机に手を伸ばし、花の落し物を静かに手に取った。箱からは細い紐が伸びていて、その先についた円形の飾りは動かすと清涼感のある音をたてる。材質も見たことがないし何らかの道具なのは間違いないが用途が全く分からなかった。見れば見るほどに不思議な代物だ。一体これは何だろう。
玄徳軍の使者は不可解な存在だった。玄徳に与している者とは思えない言動の数々を挙げたら切りがないし現在行動を共にしている仲謀の軍からも浮き上がった存在である。羽織でごまかしきれない妙な装束はどこの国のものか推測すら不可能であった。
仲謀の妾という噂の実態はわかりかねるが公瑾に警戒される位、仲謀に気に入られているのは真実。使者として遣わされる程だ、玄徳にも重用されているのだろう。一時は孟徳の元にも身を置いたことがあると聞く。
「……どこから来たのか」
どこへ、行くのか。
誰にともなく言った。ちりん、と箱に付いた飾りが鳴る。
少女は頼りないもののとても自由な存在に感じられた。
自分は、ここ以外のどこにも行けない。
早安の瞳は冷たく細められた。

数日の後、花は城外へ自分から出て行った。尚香の立ち居振る舞いを練習するため城内に居た早安は花の行動を監視役から伝え聞き、前回逆に後をつけられた反省から城内で扮装と化粧を落としてから追うことにした。
今日の作戦は「街で悪漢に絡まれた花を忘れものを届けるため探していた早安が偶然それとなく救出する」というこれまた使い古されたものであった。当然絡まれるであろう悪漢は仕込みで、その点では昨日の作戦よりたちが悪いものだった。
早安は化粧を落としながら妙な仕事が立て込んでいるとしみじみ思い、うつむいた。暗殺の方がよほど簡単に思える。
「命令だからな…」
作戦開始前にも発した言葉を口にした。
駒に意見や自由意思は必要ない、ただ指示されたことを全うするのみ。
とはいえ化粧を落とす手際は各段に良くなっていて、そのことを自覚した早安は思わず大きなため息をついた。

「あいつ…何してるんだ?」
思わずそんな言葉が出る。早安は街へ出てすぐに監視役と花を見つけた。それはよいのだが、この状況はなんだろう。
「……先ほどからあの状態でして。」
監視役の男も困ったように早安に言った。
その先には花の後姿。これ以上真っすぐにはなれないと言うほどに一直線になっている。
腕力は思ったよりあるようだ、軽く目を細めて早安は冷静に花を見やった。
花は両手で塀につかまっていた。土塀にへばりついていた、といった方が正確かも知れない。助走をつけて飛び上がり塀につかまったはいいが、そこから上がることに苦戦しているといった様子だった。そのまま両手を離しても地面とそう距離はない。怪我をする恐れがないのを見て取った早安はそのまま静観することにし、花に絡む役だった監視役にも待機を命じた。
静かに移動し、ぶら下がっている花から若干離れた場所に塀を背にして立った。腕を組み横目で花をちらりと見ると、腕は明らかにぷるぷる震えていて手を離すのは時間の問題だろう。
前回花に後をつけられたのは失敗だった、方向感覚はなくとも記憶力は悪くないようだ。孫尚香を軟禁している邸はここからごく近くにある。万が一本物の孫尚香と花が顔を合わせたら厄介な事態になるだろう。公瑾に伝えるべきだな、そう早安が思って眉をひそめたとき。
「っ……!」
横から勢いよく何かーー花だったーーが飛んできたのに気が付き、早安はすんでのところで態勢を整えて受け止めた。思わず袖の中に潜ませた暗器を出しそうになったことに冷や汗をかく。一体どうやったらこんな軌道であのぶら下がっていた場所から早安のところまで飛んできたのか、皆目見当がつかず早安は笑顔を作ることも忘れ腕の中の花を見つめた。何か特殊な技か術でも習得しているのかもしれない。
花も瞳を大きくして早安を見つめ返した。唇が薄く開かれる。
「仲ぼ……じゃ…ない……」
その声に混じったのはわずかな失望か。語尾は小さく消えた。早安は瞬時に冷静になり頬の筋肉を総動員させて笑顔を作った。
「大丈夫?」
「あああっ、えっと。すみません!!!」
早安の言葉で花も我に返ったらしい、顔を一気に真っ赤にして下を向いた。
「降ろすよ。」
一声かけて、花を腕の中から解放した。全くこの女には仰天させられっ放しだと胸の内で思った早安に花はぺこりと頭を下げた。早安をまっすぐ見上げて微笑む。
「あの、ありがとう…」
「……」
感謝の言葉をこれほどまっすぐに受けたのはいつ以来だろう、思い出すことすら難しく、早安は息をのんだ。
「別に、偶然居合わせただけだ……」
どうにかそれだけ言う。
「あの、ちょっと人を探していて、でも表門から尋ねるほどの用事じゃなくって、それで少し中を伺えないかなと思って塀に登ったら意外に難しくって……本当にごめんなさい。」
かくかくと手振りをしながら花は一気にそう言い、早安を見て瞳を大きくした。
「…わたしたち、前に会ったこと……」
「そうだね、あるよ。」
笑顔を浮かべながら早安は言った。
「多分何日か前にも会ったと思うよ。君を探してたんだ。」
懐から先日拾った物を取り出した。
「これ、君のじゃないかな。」
「あ!ケータイ……」
ケエタイ?早安には聞いたことがない単語だった。
花はポケットをスカートの上から触った。確かにそこにあるはずの携帯電話がない。
「いつの間に落としちゃってたんだろ……」
花のその言葉を聞き、早安は片眉を上げた。落としたことに気が付いてもいなかったのか。
「あ、りがとうございます……」
さっきの感謝の言葉とはまた違う感情がこもった声だった。
花の掌に「ケイタイ」なるものを置くとしゃりん、と飾りが音を立てる。
「この間もぶつかりそうになったの、覚えてる?あのとき拾ったから、君が落したんじゃないかと思って探してたんだ。」
言いながら後ろ手で手早く監視者に合図を送り、公瑾によって与えられた策の停止を伝えた。状況に応じた判断をするべくある程度自由にふるまう権限が早安にはあらかじめ与えられている。自然に会話に持ち込めたのにわざとらしい演技をする必要は全く感じられなかった。
「わざわざ届けてくれたんですか…ありがとうございます。」
花は掌の携帯電話の感触を確かめながら言った。
「ほんとに大切なものだったから……って無くしたこと気がつかなかったんだけど。」
早安の年齢が自分の年齢とほぼ同じであろうことを見取り、花の口調が一気に砕けたものになる。
「私と同じ位の年かな、この間もさっきも迷惑かけちゃってごめんね、そそっかしくて。」
陰りの無い笑顔を向けられた早安は居心地の悪さを感じた。なんだか落ち着かないのは、花が余りに無防備だからかもしれない。
「……あまりここの近辺をうろつかない方がいいんじゃないかな。由緒正しいお屋敷が多いから、さっきみたいなことしてると警護兵とかに捕まっちゃうかも知れないし。」
思わず忠告めいたことが口から出たことに早安は驚いた。こいつに変な風に動かれて孫尚香を軟禁している屋敷に踏み込まれたら後々面倒だからな、と自分を納得させる。
「由緒正しいお屋敷が多い……、そうなんだ。」
花はうつむいて口元を押さえ、何やら考え込んでいる。どうやら余計なことを言ってしまったようだ。
「とにかく、あんまり危ないことをしないほうがいいと思うな。」
なんとか笑顔を維持して早安は言った。
「何かあってからじゃ遅いし。」
今のところは「篭絡」などという甘い策で済んでいるが、公瑾が本格的に大儀の邪魔になると判断した際は平然と暗殺を命じるであろうことは容易に推測された。
その方がこっちは楽だがな、早安は冷えた頭でそう思う。
「そう、だよね……」
花は早安を見て、急にくすくす笑いだした。
「……?」
何でこのタイミングで笑いがでるのか全く見当がつかず、早安は戸惑いを隠さずに花を見た。「…ごめん…。」
謝りながらも花の笑いは止まない。
「…なんかある人に似てるって思ってたけど、私の勘違いだった。」
「…え?」
「ごめん、気を悪くしないでね。」
花は言った。
「初めて会ったときから、あなたがある人と似てるなってずっと思ってたんだけど、中身が全然違うなって思ったら急におかしくなっちゃって。」
孫仲謀のことか。中身が全然違うとはどういう意味だろう。
花の発言の意味するところが分かりかねた早安は眉をひそめた。
「そんな風に優しいこと、絶対言ってくれないし。」
優しい?
なにか優しい言葉を言っただろうか、単に警告しただけだが。早安は内心首をかしげた。
「言うとしても、命令口調だろうし。……懐かしいなって思っちゃう位、最近なかなか会えてないんだけどね。」
その笑みに陰が差したのは一瞬のこと、花は勢い良く顔を上げた。
「そろそろ私、戻らなきゃ。今日はありがとう。」
一気にそう言い、片手の携帯電話に目を落とす。
「……本当に大切なもの、届けてくれてありがとう。」
早安にそう笑いかけて、ポケットに携帯電話をしまうと花は身を翻した。

ぱたぱたと軽い足跡が遠ざかっていく。
「慌しい奴……。」
小さくなる背中を見つめつつ、早安は笑顔を完全に消しひとりごちた。
孫尚香の替え玉計画についてどの程度勘付いているのか。自分の不手際について公瑾に報告しなくてはならないのは気が重い。
「本当に孫仲謀はあんなのを傍に置いているのか……?」
会話が上手くかみ合わないし、それにあの笑顔と真っ直ぐに向けられる視線。
あんなのと一緒にいたら心臓がもたない、そう早安は思った。


(続きます。続きは創作中です…)

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