かなり放置しておりました、本当にすみません。
最近またゲームやり直してキュンキュンしました。
みてる人いるのかな、最終話、計画性の無さ故無駄に長いです。
前編中編→後編(ココ)

・三国恋戦記二次創作
・仲謀ルート中の花と隠し、完全捏造。
・ネタバレ注意
・ちょい暴力描写あります。
・未成年飲酒ダメゼッタイ。よい子は真似しないでください。

■花篭絡作戦 その3

「玄徳軍の使者に近づく必要が無くなりました。」

策の急な中止を公瑾に告げられたのは二日後のこと。
「よって、現在最も重要な例の策の準備に専念して下さい。」
その口元にはいつもの通り、感情を読み取らせない笑みが浮かべられている。
「……わかった」
早安はほんのわずか間を置いて答えた。
作戦の打ち切りを命じられるのは特別なことではない、戦時においては特に。
指令に従うのは当然だと理解しながらも、早安はその唐突とも言える策の中止に戸惑いを感じていた。その微妙な感情の揺れを感じ取ったのか、公瑾は早安に視線を向ける。
「……彼女のことが気になりますか?」
「別に、そういうわけじゃない。」
かすかにからかいを含んだ問いに対していつも通り冷淡な早安の答えに公瑾は人知れず微笑を深くした。
「彼女には本日玄徳殿のところにお戻り頂きました。
今回の婚姻のためいらしたあちらの方々が滞在している屋敷に現在は合流しているでしょう。」
公瑾はゆっくりと顎に右手をかけた。
「無策な割には鋭い方の様です、尚香様の居場所を特定されました。」
公瑾の言葉に早安の目つきは鋭くなった。
俺の失態だ、そう思う。尾行を許した上に注意を逸らす事も出来なかった。
苦い思いが早安の中に広がった。
「計画には何ら支障がありません。私がそう判断しました。」
一瞬張り詰めた空気を破るように、公瑾は平静な声音でそう告げた。
「あなたは何も考えずに次の策の準備に専念してください。」

早安が退出した後、執務室に一人残った公瑾は小さく息をついた。
「ミイラ取りがミイラになる……、それは考えすぎでしたね。」
仲謀に面立ちが似ているという理由で早安に指令を与えたのは公瑾だった。
感情を律して直属の部下として完璧に職務をこなす彼は使い勝手の良い存在である。
花と接するようになってから彼の様子にかすかな違和感を感じたのは自分の気のせいだったのか。
公瑾が早安に策の中断を命じた理由は玄徳軍に戻ったからのみではなかった。
玄徳軍の使者はただの小娘に過ぎない、とはいえ。
「……不思議なところのある娘ですからね…。」
同行を許した先の戦場においては、情というものに無縁だと思っていた自分ですら揺さぶられるような気持ちになることがあった。
しかし、先ほどの早安の様子からはそのような様は伺えない。あくまで冷静なその様子に公瑾は安堵した。
人選に間違いは無かった。彼女が呉軍を離脱した今、策が不必要になり中止を命じたというだけの話。
「それで良いのですよ。」
自らに言い聞かせるように、言った。
「余計な事は考えなくて良いのです。」
早安も、花も、自分も。
中原制覇こそが孫家の悲願。大儀の前には自分も、仲謀ですら駒に過ぎないのではないか。
矢傷が痛み、公瑾は胸を押さえ机に伏せ、息を深く吐き出した。

別に、不満があるわけではない。そうではないということは断言できる。だがしかし。
この胸がモヤモヤする感じは何だろう、そう早安は思い小さく息を吐いた。
城からの帰路、夕刻が近い時間帯のため街は活気に溢れている。至る所で客引きが呼び込みの声を張り上げていた。
空腹を感じ、裏通りに面したなじみの肉餅の美味さで有名な店へと早安は足を向けた。

特に深く考える必要は無い、そう結論付ける。自分が犯した失態のために策が中止になったことが気になっているだけだ。
「肉餅を五個、持ち帰りで頼む。」
あら早安随分ご無沙汰してたじゃない、といつもの通り馴れ馴れしげに話しかけてくる店員にそれだけ伝え、道に面した席に店内に背を向ける形で腰掛けた。自然、道路に視線を向けることになる。味は文句無しだが小さなころから馴染みである店員の態度には気恥ずかしさと煩わしさを感じた。肉餅が出来上がるまで道行く人でも眺めるか、そう思い頬杖をついたその時。
「……なんであいつ…。」
こんな場所にいるはずのない少女が視線の先にいた。
ギリギリ向こうからは気づかれない距離にいたのは紛れも無く花だった。
最近の彼女の動向から推測するに、今日も懲りずに孫尚香の行方を捜していたに違いなかった。公瑾の裏をかくということはそう簡単に出来る事ではない。無駄足もいいところだろう。
街は夕日に染まっている。しばらくすれば一気に暗くなるのは明らかだ。
この辺りは少し道を逸れただけで治安が一気に悪くなる。
帰路の途中で道に迷ったのだろうか。早安は眉をひそめた。
孫仲謀の女ともあろう人間が護衛も付けずに一人で城外をウロウロしていることは信じがたいが、見たところそのような存在は見当たらない。
玄徳軍は余程人材が不足しているのか。
既に公瑾からの命令は取り消された身だ、顔も割れている。彼女を助ける必要は全くないだろう。
注文したものはまだこないのかと早安が店内に視線を移し、再度彼女に目を向けると、彼女は立ち止まって背が高く体格の良い男性に話しかけられていた。明らかに柄が良くない男だ。
この近辺に近寄らないほうが良いという警告は前回した。
自業自得というものであろう、そう思いながらも早安は二人の様子から視線を外すことが出来なかった。
「私、もう行きますから!!っ……」
不機嫌そうな表情で早安が引き続き悪漢と少女の様子を観察していると、彼女が大きな声でそう言った直後一気に男に二の腕を掴まれて引き寄せられ、脇に抱かれるのが目に入った。
主君の同盟相手の使者だ。
呉の土地でさらわれるのをみすみす見逃すことは公瑾も良しとしないであろう、大体中止になったとはいえ一時は指示された内容をこなすだけだ。
そう自分を納得させて早安は静かに立ち上がった。
足早に男に近づき、後ろから声をかける。
「すみません。」
「あぁ!?」
早安は一息つく間もなく男が振り向いた反対側に回った。
花を抱えた腕の肩関節めがけ手を伸ばし、その親指に力を込める。
すべては一瞬で耳につく音は一切しなかった。
ただ男の肩の関節が外れただけのこと。痛みを感じさせることもなかったはずだ。
力を失った男の腕から、早安は何事もなかったかの様に彼女を受け止めた。
「っ!?」
あまりの早業に男は自分の体に何が起こったのか、理解していないに違いない。
目を白黒させている。
「彼女は僕の知り合いですが……」
浅く笑みを浮かべながら早安は言った。
「何か御用がおありでしたか。」

自分らしくないお節介などやめて置けばよかった。
作り笑顔を顔に貼り付けながら、早安は早くも自らの行動を悔やんでいた。
「いやー、まさかこんな日が来るなんて予想できなかったね!この朴念仁が!!」
ばしいと背中を思い切りはたかれ、呼吸が止まりそうになる。
「この子、愛想ないだろ、あたしゃ心配してたんだよ、密かに」
「そんな、いっつも親切で優しいです!!」
「親切で、優しい、だってぇ!?変わるもんだねぇ。」
うぷぷぷ、と嫌な視線を横目で送られ、早安の笑顔はさらにひきつった。
花を男から引き離した後、何気なく別れれば良いだろうと思っていた早安であったが、ちょうど肉餅が焼き上がったことを知らせるために通りを覗き込んだ店員と鉢合わせをし、そのうえ花のお腹が絶妙なタイミングで空腹を知らせたのだ。商魂たくましい店員に店内に招き入れられるのは自然の摂理。
かくして二人は先ほどの肉餅の店の中、机に並んで座っていた。

素の早安では不審がられる、そう判断し花にこれまでの態度をとることにしたものの、それはそれで店員にからかわれ、面倒なことこの上ない。
早安がちらりと横目で迷惑そうな視線を店員へ向けると
「ハイハイ、わかったよ、せっかくの肉餅も冷めちまうしね。飲み物サービスしとくよ。あとはお若い二人で~」
なんて捨て台詞と共に杯を卓に置き、店の奥へ入っていった。
「……あの」
声がして早安が隣に目をやると、花が申し訳なさそうに早安をみつめていた。
「ごめんね、何だか。また助けてもらっちゃった上に、お店にまで……」
「とりあえず、食べなよ。」
「あ、でも…」
「さめないうちに。」
早安が皿の上の肉餅に手を伸ばすと、花も遠慮がちではあるがそれに続いた。
「……おいしい…」
一口食べ、花は手の中の肉餅をまじまじと見つめた。
餅に包まれた具から、肉汁がじゅわっとにじんでいる。豚肉と葱のような香味野菜が入った肉餅はとびきり美味しかった。
花は正面に置かれた杯をとり、口に運ぶ。こくりと喉が鳴った。
「こっちも、おいしい……」
よほどお腹がすいていたのだろう。
食べ物や飲み物を口に運ぶ花は満面の笑みを浮かべている。
本当に美味しそうに食べるヤツだ、早安はそう思い自分でも気づかないうちに微笑を浮かべた。
「そんなにお腹空かせてまで、何してたの?」
「ちょっと…人を探していて…」
予想通り彼女は孫尚香を探していたのであろう。早安の瞳に剣呑な光が宿る。
「よほど大切な人なのかもしれないけど」
早安は笑顔を深めた。
「前にも言ったようにこの近辺は物騒な事件もあるし、あまり無用心に出歩かないほうがいいと思うよ。
さっきもあのまま連れて行かれたらどうなってたか分からないし。」
全く、玄徳軍の奴らもこんな危なっかしい人間をよく野放しにしておける。
孫仲謀も自分の女だというなら、監視者くらいつけておけばいいものを。
「そのうち会えるんじゃないかな、何もしなくても。」
すべてが終われば。
最も、その時玄徳軍に組する人間たちがどのように扱われているかは分からないが。
「そのうち、じゃ、だめなんだ…」
小さいけれど、はっきりした声だった。
「探さないと、早く確かめなきゃいけないことがあるから。」
「ずっと探してて現に見つかってないわけだろ。
闇雲に探し回っても疲れるだけなんじゃないの。」
言外に諦めたらどうかという意味を込め、早安は肉餅の皿に手を伸ばして二つ目を取り、口に運んだ。
「そうかもしれないけど……」
曇りが一切無い花の瞳が早安に向けられた、。
「私は、私に出来るべきことをするって決めてるから。」
「……そう。」
どうやら諦めさせるのは難しそうだ、そう早安は判断し、小さく息をついた。
公瑾のことだ、むざむざとこの女と孫尚香を接触させることはないだろう。
おそらく、孫尚香は既に別の場所に移動させられているに違いない。
「君がそう言うなら仕方ないね。」
どちらともなく黙った。
所詮はただの一人の女。
到底公瑾の策の裏をかくことが出来るようには思えないが、花を前にすると何故胸がざわめくのか早安はわからなかった。
沈黙を破るように花が口を開いた。
「なんていえばいいか良く分からないけど、私の居るべき場所はここじゃないのかも知れなくって……」
彼女はうつむいた。
「今やるべきことをしっかりやっていないと、どこにも居場所がないなって焦っちゃって……。
だから、動けていられる方が楽なんだよね。」
花は急に笑みを浮かべた。明るく言う。
「ごめんね、いきなりこんな重いこと話しちゃって!」
あはは、と笑って杯に手を伸ばし、飲み物を口に運ぶ。
「意味わかんないよね、こんなこと急に言われても…」
「わかる。」
花の濁りがない瞳を早安は見据えた。
「わかるよ」
寄る辺の無さ。
役に立てていれば、機能を果たしていれば存在意義を自分で認められるということ。
玄徳軍に属しながら仲謀の寵愛を受ける彼女も自分と同じように存在の揺らぎを感じているのだろうか。
早安は目を伏せた。

「あのさ、助けてもらってる身で悪いかなって思ったんだけどっ!」
突然叫ぶように花は言い、勢い良く飲み物が入った器を机に置いた。
がつん、という鈍い音が店内に響き渡る。
「良く考えたらさぁ、不自然だよね!!わたしたち『たまたま』会いすぎじゃない!?」
「……」
あくまで動揺を表さないよう平静を装い、早安は伏せた目を上げ、ゆっくり花を見た。
器は割れていないようだ。頬が上気している。
ーー果実酒か。空になった杯を見やり、思わずため息をついた。彼女は酒に耐性がないらしい。
「何が?」
「最近良く会うなって思って。」
「そうかなぁ。」
突然何を言うのか。酔っているとはいえ返答に油断は禁物だ。
早安は背筋に緊張がはしるのを感じながら笑顔をつくろった。
「偶然だと思うけど。」
「そうかな。」
花の目は完全に据わっていた。
「誰かの指令で動いてるなんてこと、ないかな?」
「まさか」
困った表情を作りながら、早安は冷静に今後の対応を模索した。
「そんなわけ、ないだろ。」
まずい。動揺を見せたら一気に公瑾の事までたどり着かれるかもしれない。
そうなれば失態どころでは済まないだろう。
場合によっては。
「だから……」
彼女にとって『最悪』となる判断を想像し、早安はごくわずかに顔をゆがませた。
なんとしてでも、ごまかさねばなるまい。
「だから…あんたのことを俺は……」
何なんだ。調子が狂うどころの話じゃない。
コロコロ変わる表情。
妙な落し物。
ボケてるようで、鋭い。
腑に落ちないことだらけで不愉快なことばかりなのに、なぜかどうしようもなく。
「気になるんだよ。」
発した後に自分の言葉の意味する所が何か理解して、早安は目を見開いた。
なんだこれは。
まるで、自分が彼女を。
「なんでぇーやっぱーあたしゃーこの世界にとけこめてにゃいのかねー」
早安の思考は、酔っ払いの言葉で中断された。
「うぅぅーなんかふわふわするー」
言うなり机に突っ伏した花に早安はすっかり冷えた目線を送った。

その後は酔っ払いの介抱と店員の冷やかしへの対応に追われた。
どうにかして花を玄徳軍が滞在している屋敷へ送り届けた帰り道、暗殺より面倒だったと早安は思いため息をついた。
「全く…最近碌なことがない。」
早安は視線を下げて自分のてのひらを見る。
初めて会ったときに重ねた手の感触。
次に会った時に体を受け止めた感触。
言動が全く読めない人間だった。俺としてもう会うのは最後だろう、そう早安は思った。
次に顔を合わせるとするならばそのときは彼女の主君を暗殺する時。
感情を極力表さないよう努めている早安の瞳は曇る。
「私は、私に出来ることをするって決めてるから。」
耳に残るのは花の声。
自分に出来ること、か。
俺に出来る事は彼女の陣営からすれば害そのものだろう。
皮肉だな、そう思った早安は眼をわずかに細めた。
花の背中は曲がり角の先に消え、既に見えなくなっていた。


--
ルートの裏でこんなイベントがあったらいいなという勝手な妄想でした。
下書きが8月とか…ほんとにスミマセン。

店員さんのキャラ忘れちゃったんで、こんな雰囲気だったかなという
おぼろげな記憶頼み。ルート辿り直しておかしかったら修正するかもです。
早安の好感度は1~2位で超低糖。
花ちゃんは玄徳陣営に戻っちゃいましたので話が中途半端ですみません。
ししょーがついてるからこんな不用意なことはさせないかな。
早安くんはとても真面目なので路線が変わってしまいました。
次は今度こそギャグ目指したい!!

拍手する

0 コメント: