・Pretty☆Witch☆Academy!二次創作:アキト→ユメ
※18禁乙女ゲーです、注意。

☆アマツからアカデミーへ向かう前、ユメが寝坊して起きたくらいの時間。

アキトはユメがいないとこでも勝手に振り回されてクタクタになってると思います。
ってかアキト、どんだけ社会性ないんだ、って感じのキャラ設定……。
でもきっと、アキトはねえちゃん以外どうでもいい日々を送ってたハズ。

■旅立つ君へ
相変わらず、どこまでもあきれたヤツだ。
アキト・キタムラは家を出て大分経つのにまだ追いついてこない姉を思い、大きなため息をついた。

今日はシルバースターアカデミーへ出発する日。
……もうアマツへ戻ってくることはないかもしれないことを思い、昨日の晩はあまり良く眠れなかった。
姉であるユメとようやく離れられるかと、あの苦しい生殺し状態の日々から逃げることができると思った矢先、なんとその落ちこぼれの姉も超難関のエリート学校であるアカデミーに抽選で入学が決定したのだ。
アキトはまだ混乱していた。
「……何か、変わるのかな…」
小さく呟く。
小さな頃から何度も通った道。見慣れた風景を眺めながら、これまでのアマツでの日々を思い返した。その頃にはもう戻れない。何の裏も無く姉と手をつないで歩いていたあの頃には。
新しい生活が始まる。
ユメへの行き場のない思いにもなにか変化があるだろうか。

「…しっかし、アイツおせーな。」
今までも何度か後ろを振り返ったが、一緒にアカデミーへ向かうはずの姉の姿は一向に見えない。
ユメも起こして一緒に向かいなさい、母はそう言ったがお互いにもうガキではない。
一応出発前にアイツの部屋のドアはノックした。無反応だったが、着替え中だったらと思うと下手にドアの中には入れなかった。
「あそこまで鈍感だと大物だよな…。」
一人ごちる。昨日あまり眠れなかった自分がやたら繊細に思えてきて、またため息をついた。
いっそ初日から遅刻して、アカデミー退学になっちまえばいいのに。

色々感慨にふけりながら普段よりゆっくり歩いたのだが、ユメは一向に現れないまま波止場まで到着してしまった。
「…あいつ、マジでアカデミー来る気あんのか…?」
全くあきれ果てる、そうアキトは思った。
世界中の精鋭が集う名門魔法アカデミー。
首席入学を果たしたアキトですらこれからの日々を思うと身が引き締まる思いであるのに。
ほんとあいつはお気楽だよな、そう思いアキトは何度目かわからないため息をついた。

「……キタムラ??」
ため息をついたのとほぼ同じタイミングで呼び止められ、思わず振り返った。
ユメではない、若い男の声。
振り返った先には、黒髪黒目のいかにもアマツ人、といった容姿の男がいた。
「…スズキ?だっけ?」
「……いや、オレ、サトウだけど。」
中高、一緒だったじゃんとやけに馴れ馴れしく肩を押されたが、アキトの記憶では一度も同じクラスになったことは無かったはずだ。
同じクラスですら会話したことが無い人間が結構いたアキトが彼を覚えていなくても不思議ではなかった。
呼ばれたことに気がつかない振りをすれば良かった、そんなことを内心アキトは思った。
「その服、シルバースターの制服か?さっすが優秀だよな。」
なおもサトウ、という男はアキトに話しかける。
アキトの方は全く認識していなかったが、サトウという男はアキトとその進路を知っているらしい。
「キタムラってずっと学年一位だったもんな、当然といえば当然かぁ。」
悪気が無い笑顔に毒気が抜かれる。
(なんだか、こいつ、どっちかってとアイツとおんなじ人種かも。)ちらりとアキトは未だ現れない姉を思った。
陰りがない笑顔。
「しっかし優秀じゃない方のキタムラも同じとこ行っちゃうんだろ、すげー意外だったよ。」
どうやらユメのことも進路も知っているらしい。ユメのクラスメイトだったのかも知れない、そうアキトは思った。
「……あのさぁ、ユメは一緒じゃないのか…?」
姉の名前を何でもないことのように呼び捨てにするサトウへ向けたアキトの視線が一瞬厳しくなった。
そんなことには全く気がつかずに彼は言う。
「なんつーか、ホラ、お別れの挨拶くらいはしてやろうかなって。今日の朝出発するって聞いてたんで、ちょうどオレ、暇でさ……」
照れたように早口でまくし立てる。
「別にさ、絶対会えると思ってたわけじゃないんだけどさ、たまたまキタムラ見つけたからあいつも、いるかなって…」
なるほど、これが本題か、アキトは口の端をわずかに上げた。
「シルバースターってワンダルワンドにあるだろ、アマツから相当距離あるし中々これから会えなくなるなって思ってさ」
……ひょっとしてユメとこいつは付き合ってたり、するのだろうか。
急にそんな疑惑がアキトの中に浮かび、体が急速に冷えていくのを自覚した。
(いや、そんなはずないだろ。ユメにそういったことがあった場合わかりやすいあいつのことだ、すぐ顔に出て俺にわかんないハズない。)
そう思い、気を持ち直した。
「ふーん、ユメと随分仲いいんだな。」
皮肉のつもりであるアキトのその言葉にサトウは耳まで真っ赤になった。
「た、たっただの友達だ」
…随分解りやすい反応だった。もう、それで敵だと認識するのには十分だ。
「……あいつなら、もうアマツ出発した。」
なるべく目を見ずに、なんの感情も込めないようにアキトは言った。
「え」
「アイツ、補欠合格だっただろ、補欠合格者は一足先にアカデミー向かってやんなきゃなんねー課題があるんだとよ。」

「…そうなんだ……」
疑いもせずあからさまに気を落としたサトウの様子にアキトはわずかに良心が痛むのを感じた。
同時に、言いようの無い嫉妬心が沸いてくるのも。
「じゃあさ、ユメに…これ渡しといてくんねーかな。」
気まずそうにしながら、サトウはアキトに一通の手紙を渡した。
真っ白な、あて先が書かれていない封筒。
「べ、別に大した内容じゃねぇんだけどさ、頑張れ位伝えたいと思ってよ。」
地面を見ながら言い募るが、上ずった声をとっても上気した頬をとってもあまり『大した内容』でないようには思えない。
「なんで、俺が」
思わず声が低くなった。
「え?」
サトウは善良そうな表情でアキトを見つめた。
これっぽっちも渡すことを拒まれるなんて予想もしてない表情。
嘘をついた自分に嫌悪感を感じ、アキトは思わず手紙を受け取った。
「わかった。向こうで渡しとく。」
せめてもの罪滅ぼしだ、そう思い手紙を受け取った。
「マジで感謝する!!ありがとう」
サトウはぱっと笑顔になり、その手紙を勢いよく渡した。
「ほんと大した内容じゃないんだけど、ありがとな!!」
オレこれからアルバイトなんだお互い新しい生活頑張ろうぜ、慌ただしく早口にそう言い、サトウは去っていった。
残されたのは一通の手紙。
「……」
手紙を一瞬見つめた。
ユメがシルバースターアカデミーまで行くことになっていなければアイツの横でユメが笑ってる未来があったのかも知れない。
アキトにはその光景がありありと想像できた。
何一つ後ろ暗いところのない恋愛。好きな奴に堂々と好きだと言える関係。
羨ましくて、妬ましくて、苦しい。
明るい笑顔で同じように笑い合えるふたりは、きっととてもお似合いだろう。
そんな想像をするだけでただ見ていることしかできない自分に反吐が出る。
いっそ捨ててしまおうか、そう思いつつそれを実行するのに若干ためらいを感じアキトは小さなため息をついた。
どうするかはユメが追いついてくるまで少し考えてみよう、そう思った。

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